ルイス・フェルナンド・ルビオは、ニカラグア北部ヌエバ・セゴビア県ディピルトで、 エル・ハルディン農園を家族とともに営むコーヒー生産者です。
1980年代後半から3世代にわたってコーヒーを育ててきた家族のもとで、 ルイスも若い頃から生産に携わってきました。 現在は農園の仕事だけでなく、精製方法の研究や焙煎、販売まで自ら手がけています。
母から受け継いだエル・ハルディン
エル・ハルディンは、ルイスの母ローサ・イネス・ルビオから受け継いだ小さな家族農園です。
2005年には、ローサ・イネスが参加したディピルトの生産者グループ「Coop. La Unión」が Cup of Excellence Nicaragua で91.30点を獲得し、1位に選ばれました。
ルイスは10代の頃から、家族でつくったコーヒーを自分たちの手で販売することを考えていました。 「Café Don Luis」というブランドを立ち上げ、焙煎したコーヒーを地元で販売しています。
2022年に田中が初めて農園を訪れた際に、ルイスが見せてくれたのは自作の焙煎機でした。 家族で育てた豆を自分で焙煎し、自ら卸先へ届けるところまで行っていました。
10年にわたる発酵の研究
エル・ハルディンは生産量の限られた農園です。 ルイスは、大きな農園とは違う方法で自分たちのコーヒーを選んでもらうため、 味わいに明確な違いをつくる方法を探してきました。
2016年頃から本格的に取り組んだのが発酵です。
アナエロビックや好気性発酵、カーボニックマセレーションなど、 さまざまな方法を試し、発酵時間や条件を変えながらカッピングを繰り返してきました。
なかでも長く取り組んできたのが、カーボニックマセレーションを応用した精製です。 当時は現在ほど特殊な発酵方法が広く知られていなかった時期でしたが、 ルイスは早くからその可能性に着目し、自分の農園で実験を重ねてきました。
現在では、pH、温度、Brix(糖度)、時間などを確認しながら発酵を管理しています。 ロットによっては240時間ほどに及ぶこともあります。
これほど長く発酵させながら、ルイスのコーヒーには発酵由来の風味だけが強く残るような重さがありません。 ワインや熟した果実、メロン、青リンゴを思わせる複雑な香りを持ちながら、カップには透明感があります。
10年近く条件を変えて試し、その結果を確かめてきたからこそできる精製です。
カツーラを、もっとおいしく
ルイスが発酵に取り組む理由のひとつに、エル・ハルディンで昔から育ててきたカツーラがあります。
カツーラにはチョコレートを思わせる甘さや、穏やかな飲みやすさがあります。 一方、ゲイシャをはじめとする華やかな品種が数多く登場するなかで、 品種の特徴だけで強い印象を残すことは簡単ではありません。
だからといって、ルイスは長く育ててきた品種を手放すのではなく、 精製によってその味わいをどこまで広げられるかを試してきました。
良い素材は、上手に使えばもっとおいしくできる。
田中がそれを料理人の仕事にたとえると、ルイスも納得したように笑っていました。
2022年から続くエル・ハルディンへの訪問
田中が初めてエル・ハルディンを訪れたのは2022年です。
当時ニカラグアに長期滞在していた田中に、エウドロ・ギジェンがルイスを紹介したことから交流が始まりました。 農園のゲストハウスに滞在し、その後も毎年訪問を続けています。
現在はカッピングをして買い付けるだけでなく、収穫ごとの出来を確認しながら、 日本でどのロットをどう販売するかについても話し合っています。
エル・ハルディンでは、収穫日や発酵条件ごとに細かなマイクロロットをつくるため、 一つのロットが半袋から一袋ほどしかないこともあります。 風味の近いものを組み合わせて一定量をつくる一方、 特に面白いロットは混ぜずに、そのまま日本へ届けることも検討しています。
ルイスは朗らかで穏やかな人ですが、コーヒーの話になると細かな条件まで話が尽きません。
10年近く発酵を試し続け、毎年その結果を確かめて次の収穫へつなげる。 エル・ハルディンを訪れるたび、ルイスはまた新しいコーヒーを用意しています。

