Coffee Producer
Sergio Ortez
Nicaragua / Nueva Segovia
セルヒオ・オルテツさんは、ニカラグア北部のヌエバ・セゴビア県でコーヒーを育てている生産者です。エル・ポルベニール農園とカサブランカ農園を営んでいます。
内戦のあとに荒れた農園を、セルヒオさんは立て直してきました。品種、精製、乾燥を毎年見直し、ニカラグアで早くからナチュラルやハニーの可能性を追ってきました。
地雷の残る農園を受け継ぐ
セルヒオさんがコーヒーの仕事を始めたのは、1992年です。2000年、お父さんからエル・ポルベニール農園を譲り受け、自分で運営を始めました。
ところが、農園のまわりには内戦のときの地雷が残っていて、入ることができませんでした。地雷を取り除き、荒れた土地を整え、コーヒーの木を育て直す。いまのエル・ポルベニールは、セルヒオさんが長い時間をかけてよみがえらせた農園です。
その後、お父さんが亡くなり、カサブランカ農園も引き継ぎました。お父さんの代にも、カサブランカとラ・コパのコーヒーが、2003〜2005年のカップ・オブ・エクセレンス(COE)に入賞しています。
サン・フェルナンドとマクエリソ
エル・ポルベニールはサン・フェルナンドにあり、標高は1,100〜1,200mです。カサブランカはマクエリソにあり、標高1,107〜1,480mの斜面に広がっています。エル・ポルベニールの中には、特区のアイレ・フレスコがあります。
品種と、年ごとに変える精製
育てている品種は、パカマラ(レッドとイエロー)、ジャバ、カツーラです。エル・ポルベニールでは、ジャバとレッドパカマラが中心です。
セルヒオさんは、同じ時期に植えた木の中から、特に大きく、枝ぶりがよく、葉の多い木を選びます。その種を分けて育てています。同じ品種でも、木の大きさや実のつき方には大きな差があるからです。農園に合い、気候の変化や病気に強い木を増やすため、数年かけて育ち方と品質の違いを確かめています。これから、ゲイシャやピンクブルボンも植える計画です。
精製の方法は、決めていません。同じ品種でも、その年の気候、実の熟し具合、収穫の時期で、合う発酵や乾燥は変わるからです。ナチュラルのほか、パルプドナチュラル(果肉を除き、粘液質を残して乾かす精製)や、発酵の時間を変えた精製も試してきました。いまはアナエロビック(酸素を断って発酵させる精製)にも取り組んでいます。
強い発酵の香りをつくることが、目的ではありません。土地や品種の香り、甘さ、質感を残しながら、クリーンで何度も飲みたくなる味に仕上げることを大切にしています。
ブラジルの精製を、ニカラグアの気候に
私たちは、ブラジルの産地で見たナチュラルやハニーの精製の方法と設備を、セルヒオさんに伝えました。当時のニカラグアはウォッシュドが中心でした。発酵を伴う精製で質の高いコーヒーは、今のようにはつくられていませんでした。
セルヒオさんは新しい方法に可能性を感じ、自分でブラジルまで足を運んで、設備を見てから導入を決めました。2008年、ブラジルのピナレンセ社のウェットミルを入れました。ニカラグアで初めてのことでした。同時にアフリカンベッド(地面から浮かせた網の乾燥棚)も整え、選別から乾燥までを自分で管理できるようにしました。
設備を入れれば、すぐに良いコーヒーができるわけではありません。ブラジルとは、気温も湿度も違います。実を広げる厚さ、かき混ぜる回数、乾燥の日数を変えながら、ヌエバ・セゴビアに合う方法を探しました。
ウェットミルを入れてからは、水を多く使うウォッシュドを減らし、ふだんの出荷はパルプドナチュラルとナチュラルに絞っています。COEには、2012年(カサブランカ)と2024年に、ウォッシュドで出品して入賞しています。このウェットミルは、水を再利用できます。環境への負担を減らすことも考えた選択です。
私たちも毎年、できたコーヒーをセルヒオさんとカッピングし、その結果を翌年の精製と乾燥につなげてきました。
約20年、セルヒオさんのコーヒーを扱うなかで、ロースターや飲む方から何度も聞いてきた言葉があります。
「驚くほど奇抜な味ではないけれど、なぜか癖になる。」
「セルヒオのコーヒーが忘れられない。」
毎年まったく同じ味になるわけではありません。その年の気候や農園の様子を映しながら、品種と土地の良さを一杯に残してくれます。
2006年、COEの会場での出会い
代表がセルヒオさんに初めて会ったのは、2006年です。審査員として参加した、ニカラグアのCOEの会場でした。産地でコーヒーを深く学びたかった代表は、農園に泊めてもらえないかと頼みました。
翌2007年の収穫期、代表は3か月ほどを過ごしました。農園の小屋に泊まって収穫作業を手伝ったり、オコタルのセルヒオさんのご家族と一緒に暮らしたりしました。昼も夜もコーヒーの話をし、農園や処理場を回り、毎日数十種類のコーヒーをカッピングしました。
この滞在中に、セルヒオさんの紹介で、ヌエバ・セゴビアの生産者を訪ねて回りました。いまも続くニカラグアでの直接の買い付けは、このときに始まりました。セルヒオさんは、代表の「毎年必ずニカラグアを訪れる」という言葉を信じ、地域の生産者との間をつないでくれました。
セルヒオさんから、日本のロースターと飲む方へのメッセージです。
「私のコーヒーを取り扱ってくださる方、飲んでくださる方には、とても感謝しています。毎年改善を続けることができるのも、皆さんのおかげです。コーヒーは、すべて同じものにはなりません。天候や私たちの働きかけによって変化します。試行錯誤の末に育った農作物から生まれる多彩な風味を感じ、それぞれの味に驚きや発見を見つけてほしいと思っています。その中で私のコーヒーを気に入っていただけたなら、何より幸せです。もちろん、自分のコーヒーには自信を持っています。」
2026年、セルヒオさんとの関係は20年を迎えました。20回目の産地訪問で、お互いにこう伝え合いました。「これからの20年もよろしく」
主な受賞歴
- 2008年 COE ニカラグア 22位・84.33点 エル・ポルベニール
- 2012年 COE ニカラグア 10位・88.13点 カサブランカ/パカマラ ウォッシュド
- 2024年 COE ニカラグア 6位・89.35点 エル・ポルベニール/パカマラ ウォッシュド
- 2025年 COE ニカラグア ナチュラル&ハニー部門 2位・90.59点 エル・ポルベニール/イエローパカマラ ナチュラル
- 2026年 COE ニカラグア ナチュラル&ハニー部門 12位・87.72点 エル・ポルベニール/イエローパカマラ ナチュラル
2025年の2位は、精製と乾燥の試行錯誤を地道に続けてきた、一つの成果です。
セルヒオさんは、内戦のあとの農園を立て直し、品種、精製、乾燥を長く見直してきました。毎年変わる自然と向き合いながら、より良いコーヒーを探し続ける。その姿勢が、また飲みたくなるセルヒオさんの味をつくっています。
