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ロースターに届く前に、産地で決まっていること セルヒオ・オルテツさん来日トークより
産地通信

JOURNAL / 2026.10.15

ロースターに届く前に、産地で決まっていること

 セルヒオ・オルテツさん来日トークより

ニカラグア、エル・ポルベニール農園のセルヒオ・オルテツさんが、16歳の息子さんと来日しました。お客様向けのトークショーで話してくれたことを、ロースターの目線で10の話にまとめ直しました。

10月、ニカラグア北部ヌエバ・セゴビア県のエル・ポルベニール農園から、セルヒオ・オルテツさんが16歳の息子さんと一緒に来日しました。祖父の代から続くコーヒー農家の3代目で、カップ・オブ・エクセレンス(COE)では2024年に6位(ウォッシュド)、2025年にナチュラル&ハニー部門2位、2026年に同部門12位に入っています。

滞在中、BOOKyourCOFFEEを運営するロースターで、一般のお客様向けのトークショーを開きました。聞いていると、ロースターの仕事に直接つながる話がいくつも出てきました。ロースターのみなさんに向けて、まとめ直してお届けします。

トークショーの会場
トークショーの様子(お客様の顔はぼかしています)

数字で見るエル・ポルベニール

15年以上
時間をかけて水分を落としてから輸出してきた年数
10〜11%
出荷前に落とす生豆の水分
1,200m前後
農園の標高
約60ha
農園の広さ
約90人
12月の収穫期に働く人
5割減
昨年、人手不足で減った収穫量

1. 水分を10〜11%まで落としてから、日本へ出す

乾燥場に広げられたコーヒー
エル・ポルベニール農園の乾燥場

もう15年以上前の話です。セルヒオさんは日本に来て、自分のコーヒーを飲みました。産地でカップして買ってもらった豆が、8〜9か月たつと日本では鮮度を失っていました。味は残っていても、フレッシュさがない。むしろニュークロップなのにパストクロップの味がする。その原因が自分にあるのか、日本の保管環境にあるのかわかりませんでしたが、「作り手として、この状態でお客様に出すのは嫌だ」と感じたそうです。

調べた結果日本では定温倉庫に保管してあることがわかり、問題は輸出前にあると判明しました。当時のホンジュラスとニカラグア産のコーヒーにありがちな問題でもありました。

それ以降、生豆の水分を10〜11%まで、しっかりと時間をかけて落としてから輸出するようにしました。直射日光を避けるカバーをかけ、毎日かき混ぜながら乾かします。急いでその数値まで乾かしても水分活性が高いままで、輸出後の品質がみるみる落ちるのです。長期間人の手がかかるぶん、毎日コストが上がります。しかも乾かすほど豆は軽くなり、重さで決まる売値は下がります。

当時はこの概念が浸透していなかったので、周りからは「気は確かか?わざわざコストかけて軽くするのか」と言われたそうです。

それでも、ロースターに届いたあとも味が続くほうを選んだ。セルヒオさんは「生産者が消費国に来て、自分のコーヒーがどう焙煎され、どう飲まれているかを知ることが大事」と話していました。

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2. 自分の豆を、目隠しで選ぶ

カッピングの湯を注ぐセルヒオさん
カッピングの準備をするセルヒオさん

セルヒオさんは、自分の農園の豆を、発酵の時間などを少しずつ変えて何種類も作ります。どれがどれか分からないように並べ(ブラインド)、点数だけで残すものを決めます。手間や思い入れは一度横に置いて、点数だけで高品質を目指します。事実、農園には試験的に作り出された「点数が届かなかった同じ品種や処理の豆」がずらりと並び、選ばれるのはその中のいちばん良いものだけです。

参考までに、私たちの買付けカッピングでも、同じようにブラインドで評価しています。セルヒオさんとの点数の差は0.5点ほど。セルヒオさんにカッピングを任せても、トップクオリティのコーヒーを確実に選んでくれるでしょう。

セルヒオさんはQグレーダー(コーヒーの味を評価する国際資格)を持っていますが、それでも他のプロのカッパーの意見を聞きたいと言います。飽くなき探究心のために、できる限りのことをする信念は、今も変わりません。

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3. 同じ区画・同じ品種でも、発酵の時間で味が変わる

発酵タンクの前に立つセルヒオさん
発酵タンクの前に立つセルヒオさん

同じ区画の同じ品種でも、発酵の時間を長め・短めに変えると、どちらも良いコーヒーなのに味の出方がはっきり変わります。毎年の収穫では、処理方法で品質を向上させることが必要不可欠です。なぜならば、肥料や手入れの効果が味に出るのは、最低でも1年後、遅いと2年後。失敗すると、その年は丸ごと無駄になります。

だからセルヒオさんは、12〜3月の収穫期のうちに、その年にできたチェリーのポテンシャルをさらに高めることに専念し、毎年レベルを上げています。その工夫が、3年連続入賞につながっています。2026年は点数がやや下がってしまいましたが、うまくいかなかった原因は明確に分かっており、次の12月からの収穫では改善したやり方を試す予定です。すべての工程や作業が記録され、トレーサビリティが機能していることで、こうした改善がしやすくなるのです。

その結果は、2027年3月の買付けで、ロースターの皆さんと一緒に確かめることになります。

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4. 誰が、いつ、どの区画で摘んだか。全部たどれる

乾燥中の豆に置かれたロットのタグ
乾燥中の豆に置かれたタグ

乾燥場では、ロットごとに区切って混ざらないように乾かしています。それぞれに紙のタグが付けられ、どの区画を、誰が、いつ摘んだかが分かります。先ほど話したトレーサビリティの工程が、ここにも表れています。

収穫した日、運んだ人、発酵の時間と方法まで、すべて記録されています。うまくいかなかったとき、記録をさかのぼれば原因が分かります。「この区画は肥料の時期を変えた」という記録があれば、品質の違いの理由が見える。

セルヒオさんは「教科書を読んでいるだけでは進化しない。経験から全部記録して、こつこつ改善していくしかない」と話していました。

いまは、セルヒオさんの16歳の息子さんが、農園から運ばれてくるチェリーの受け取りと、タグの記録付けを担当しています。

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5. 品種の性格を知って、出番を決める

COEで入賞したイエローパカマラの実
COEで入賞したイエローパカマラの実

セルヒオさんは、品種を「子どもと同じ。兄弟姉妹でも手のかかり方が違う」と言います。トークでは、それぞれの出番をこう話していました。

  • ジャバ:バランスが良く、毎日飲んでも飽きない。「さらさら飲んでいただける」コーヒーです。
    2026年のカッピング:ナチュラル 長時間発酵(US process)/フローラル、抹茶、透明感、ミルキー、クリーン/86.5〜87点
  • レッドパカマラ:パンチがあり、しっかりした味を飲みたいときに選ぶ品種。
  • イエローパカマラ:もっと特別なものを飲みたいときに。COE入賞歴を持つ品種です。比較的土地を選ぶ品種で、木は育ってもカップクオリティを上げるためには工夫がいる品種でもあり、よその農園では継続的には育ちにくい面もあるとわかってきました。この農園の環境と、毎年の工夫がかみ合ったそうです。
    2026年のカッピング:パルプトナチュラル/グリーンアップル、オレンジジュース、明るい、ベルベットな、ロングスウィートアフター、ウェルバランス、ジューシー。87点。別ロットでは、タマリンドなど濃いめの甘さが特徴のカップもありました。

※カッピングのコメントは、2026年3月の買付けで私たちが取ったものです。2026–27年の収穫の味は、これから確かめます。

出来の悪い木は切って植え替えます。種から初回の収穫まで4年かかります。その一方で、新しい品種も少しずつ試し続けています。

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6. 定説を覆す:標高1,200m前後でもCOE入賞は可能

農園の道に立つセルヒオさん
エル・ポルベニール農園で

「スペシャルティは高地でないと作れない」と、長く言われてきました。しかし本に書いてあることがすべて正しいわけではない、とセルヒオさん。高標高に適した品種でも、土壌に合わなければ良いコーヒーにはなりません。だからセルヒオさんは、まず「自分の土地に、どの品種が合うか」から始めたのです。

エル・ポルベニールは、ニカラグアで最も高い山と2番目に高い山の間に位置しています。朝だけ霧が立ち込めることで日中の厳しさが緩和され、山から養分が降りてくるため、土は深い黒色です。広さは約60ヘクタール。

この標高1,200m前後の農園で、発酵の工夫を重ねることによって、COEで上位入賞を果たし、スペシャルティの定説を覆してきました。高地でなくても、90点を超えるコーヒーは作れるのです。

エル・ポルベニールのCOEの記録

  • 2024年 6位 89.35点 パカマラ/ウォッシュド
  • 2025年 ナチュラル&ハニー部門 2位 90.59点 パカマラ/ナチュラル
    審査員のコメント:フルーティーで力強い、ジューシー、ストロベリージャム。グレープフルーツ、リンゴ、ブラックベリー、チェリー、クランベリー、干しイチジク、ジャスミン、マンダリンオレンジ、マンゴー、メロン、パッションフルーツ、パイナップル、ラズベリー。酸はフローラル、フルーティー、リンゴ酸、スパークリング。
  • 2026年 ナチュラル&ハニー部門 12位 87.72点 イエローパカマラ/ナチュラル

出典:Cup of Excellence 公式サイト。2024年は部門の区分がなく、総合順位です。

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7. 化学肥料を減らし、森の力で育てる

農園をとりまく山と森
農園をとりまく山と森

5〜6年前から、化学肥料を減らして有機の肥料に切り替えてきました。

化学肥料を与えると、一時的には急速に成長しますが、過剰に保護された子どものように抵抗力が低下し、強い日差しに耐えられなくなるそうです。

セルヒオさんは、農薬を使わず、高木・中層の樹木・低木・草、土中の微生物に至るまで、森全体の調和を意識することで、害虫の急増を防いでいると話していました。野鳥が訪れられる生態系を保つようにしているそうです。

これに加えて、地球温暖化への対応として、高温適応種を導入するのではなく、何万本も植えられている樹木の中から、過酷な気象条件下でも特に生命力を示す個体を選抜し、その種を採取して植え替えを進めています。セルヒオさんはこれを「マザープラント(母樹)」と呼んでいます。

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8. 値段が上がるいま、品質の差は広がっている

会場では来場者から「コーヒーの値段が上がっているのはなぜ?」という質問も出ました。

セルヒオさんの答えは明快でした。原油高で肥料と燃料が高騰し、人件費をはじめすべてのコストが上昇していること。しかし、単なるコスト増加だけが問題ではない、とセルヒオさんは指摘します。

相場が上がることで、市場全体の値段が底上げされた結果、生産者は「努力しなくても売れる」という状況に置かれている。大手ブランドのコマーシャルコーヒーも値段を上げているのに、品質はそこまで向上していない。消費者は「相場だからこんなもの」と受け入れてしまう。その隙をついて、品質向上を後回しにする生産者が増えてきたというのです。一方で、セルヒオさんのように品質へのこだわりを貫く生産者もいる。同じような値段で市場に出ても、出来栄えはまったく別物に分かれていく。

「ロースターも、それを買う消費者も、自分の舌でしっかりと品質を見極めてほしい。その値段は、本当にその品質に見合っていますか」——セルヒオさんのメッセージは、ロースターにとっていちばん耳の痛い、しかし最も大事な問いかけでした。粗悪な相場品を掴まされないために。

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9. 1杯に、何人の手がかかっているか

コーヒーの木の間に立つセルヒオさんと農園の人たち
農園で一緒に働く人たちと

農園の日常的な管理には10人未満のスタッフで対応していますが、収穫期に向けて、その2ヶ月前から準備を本格化させます。今年は約35人の季節労働者を加え、12月からの収穫期には約90人にまで膨らみます。家族経営ですが、日本でいえば中小企業くらいの規模です。

働く人には、周辺の一般的なコーヒー農園の倍の賃金を支払っています。だからこそ質の高い労働力が集まり、品質が維持できるのです。スペシャルティコーヒーの製造には、細かな指示を正確に実行できる労働力が不可欠です。「完熟のチェリーだけを摘む」と指示することと、それが確実に実行されることは、別問題だからです。

それでも去年は、実がなっていたにもかかわらず人手が確保できず、収穫量が5割減少しました。最近は、より効率的に稼げる海外への出稼ぎやニカラグア国内の葉巻産業へ流出する傾向があります。収穫量が5割減というのは、経営に深刻な打撃をもたらします。年1度の収入源が半減するということです。

昨年の減収の原因は気象災害ではなく、人手不足でした。日本では気候変動がよくニュースになりますが、産地の現実としていま深刻なのは「働き手がいない」ことだと言います。来年は雹などの被害で大きな被害を受ける可能性もあります。何が起こるかわからない中、セルヒオさんたちは今できることを続けるしかありません。

トークの締めくくりで、セルヒオさんはこう語りかけました。

「1杯のコーヒーを飲むときに、何人の手がかかっているのか、どのような背景でそのコーヒーが生まれたのかを、ほんの少しでも思い出してもらえたら嬉しいです」

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10. 次の世代が、日本に来た

息子さんと一緒に味を確かめるセルヒオさん
息子さんと一緒に味を確かめるセルヒオさん

16歳の息子セルヒオJr.さんは、2年前から平日は高校に、土曜日はコーヒーの専門学校に通い、焙煎とカッピングを学んでいます。昨年からは、買付けで私たちがカップする豆の焙煎を担当するようになりました。ロースターの訪問時には、サンプル焙煎も担当しています。今年3月の買付けでは、自分の焙煎が気に入ってもらえるか、そわそわしながら見守っていました。

今回の来日で、セルヒオJr.さんはこう語ってくれました。

「日本に来て、父のコーヒーを飲んでいる本当のお客様に会えた」

生産者にとって、ロースターを通じてしか出会えない一般消費者。その距離を縮めることが、ダイレクトトレードの価値です。セルヒオJr.さんが親の農園で学び、日本で実際のお客様と出会う。この体験が、次の世代のコーヒー哲学を形作っていくのだと思います。


笑顔で話すセルヒオさん

お店で話せる3つの一言

  • 「日本に届いてからも味が続くように、時間をかけて水分を落としてから送り出している農園です」
  • 「生産者が自分の豆も目隠しで味見して、点数だけで選んだロットです」
  • 「毎日ならジャバ、特別な日にはイエローパカマラ。生産者本人のおすすめです」

セルヒオさんのロットを予約する

2026–27年は、セルヒオさんのロットを11種類ご案内しています。COEに出したイエローパカマラのナチュラル(アナエロビック)から、毎日向きのジャバ、レッドパカマラまで。

ナチュラルやハニー、長い発酵のロットは、収穫したその日に処理が始まります。収穫の前に予約が入っていると、生産者はどの実をどの処理に回すかを決めやすくなります。そのため、ナチュラルやハニーは収穫前の予約が必要です。

この記事の話と写真は、お店でお客様に産地を伝えるときに、どうぞご自由にお使いください。

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セルヒオ・オルテツニカラグア来日トーク
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