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Coffee Producer

Sergio Ortez

Nicaragua / Nueva Segovia

セルヒオ・オルテツは、ニカラグア北部のヌエバ・セゴビア県で、エル・ポルベニール農園とカサブランカ農園を営むコーヒー生産者です。

内戦の傷が残る農園を立て直しながら、品種の選定や丈夫な木の育成、精製設備の導入、発酵と乾燥方法の検証を続けてきました。

BOOKyourCOFFEEのニカラグアでの直接買い付けは、2006年にセルヒオと出会ったことから始まっています。

ニカラグアでの買い付けを導いた生産者

BOOKyourCOFFEE代表の田中大介がセルヒオと初めて出会ったのは、2006年に開催されたニカラグアのCup of Excellenceでした。

当時、審査員として参加していた田中は、産地でコーヒーについて深く学ぶため、セルヒオに自宅への滞在をお願いしました。

翌2007年に初めてセルヒオのもとを訪れ、彼の父が生前に建てた家に1か月以上滞在しました。

昼も夜もコーヒーについて語り、農園や精製施設を巡りながら、毎日60種類を超えるサンプルをカッピングしました。

セルヒオは自分の農園だけでなく、周辺地域のさまざまな生産者を田中に紹介しました。

私たちが現在、多くのニカラグアの生産者と直接つながり、継続してコーヒーを買い付けられている背景には、セルヒオが築いてくれた信頼があります。

父の仕事を手伝うことから始まった

セルヒオがコーヒーの仕事に携わり始めたのは、1992年です。

最初の仕事は、父が営む乾燥場で、強い日差しの下、コーヒー豆を乾燥させることでした。

コーヒーを育てる仕事だけでなく、収穫後のコーヒーをどのように乾燥させ、品質を守るかを、若い頃から実際の作業を通して学んでいます。

2000年には、父からエル・ポルベニール農園を譲り受けました。

セルヒオにとって、初めて自ら運営する農園となりました。

内戦の傷が残る農園を再生する

エル・ポルベニール農園は、譲り受けてすぐに本格的な栽培を始められる状態ではありませんでした。

ニカラグアでは1979年から約10年間にわたり内戦が続き、その間、セルヒオの家族はメキシコへ避難していました。

農園周辺には内戦時の地雷が残され、長い間、安全に立ち入ることができなかったといいます。

地雷の除去を待ち、荒れた土地を整え、コーヒーの木を育て直す。エル・ポルベニールは、セルヒオが長い時間をかけて再生させてきた農園です。

その後、父の他界に伴い、父が運営していたカサブランカ農園も引き継ぎました。

受け継いだ農園をそのまま守るだけではなく、栽培品種や精製設備を見直し、自らの考える品質へと農園をつくり変えてきました。

栽培からカッピングまで自ら確認する

セルヒオは農園だけでなく、収穫したコーヒーチェリーを処理するウェットミルも管理しています。

自宅の敷地内には広い乾燥場があり、サンプル焙煎を行う設備と、コーヒーの品質を確認するためのカッピングルームも設けられています。

コーヒーを育てて収穫するだけでなく、精製、乾燥、焙煎後の味まで、自分で継続して確認できる環境です。

ロットごとの風味を確かめ、その結果を次の栽培や精製へ反映することが、セルヒオの品質改善の基礎となっています。

広い処理場は仕事の場であると同時に、セルヒオ夫妻と3人の子どもたちにとって、暮らしの一部でもあります。

子どもたちは、幼い頃から処理場を遊び場として駆け回り、コーヒー生産を身近に感じながら育ってきました。

ブラジルで得た知見をニカラグアへ

セルヒオと田中の関係は、完成したコーヒーを買い付けるだけのものではありません。

田中は産地を訪れる中で、他国の農園で見た設備や精製方法、カッピングを通して得た知識をセルヒオと共有してきました。

その一つが、ブラジルで行われていたナチュラル処理です。

ニカラグアでは当時、果肉を除去して発酵、水洗するウォッシュト処理が一般的であり、高品質なナチュラルコーヒーは現在ほど広く生産されていませんでした。

田中は、ブラジルの農園で見たナチュラル処理の方法と、それを支える精製設備についてセルヒオに伝えました。

セルヒオはその話を聞くだけで終わらせず、自分の農園で実現する方法を検討しました。

そして2008年、カサブランカ農園に、ブラジルのコーヒー精製機械メーカーPinhalenseの生産処理ラインを導入します。

この設備は、ニカラグアで初めて導入されたPinhalense製の処理ラインだったと伝えられています。

同時にアフリカンベッドも整備し、チェリーの選別から乾燥までを、自ら細かく管理できる環境をつくりました。

設備を導入するだけでは完成しない

ナチュラル処理は、収穫したコーヒーチェリーを果実が付いた状態で乾燥させる方法です。

果実由来の甘さや香りを引き出せる一方で、乾燥ムラや過度な発酵、カビなどが生じやすく、扱い方によって品質が大きく変わります。

特に、気候や収穫期の湿度がブラジルとは異なるニカラグアでは、ブラジルで行われていた方法をそのまま再現すればよいわけではありません。

チェリーを広げる厚さ、攪拌する回数、乾燥にかける日数、その日の気温や湿度。さまざまな条件を見ながら、ヌエバ・セゴビアの環境に合う方法を探す必要がありました。

田中も毎年農園を訪れ、完成したコーヒーをセルヒオと一緒にカッピングしてきました。

田中が持つロースターやカッパーとしての評価と、セルヒオが農園で得た栽培、精製、乾燥の結果を照らし合わせ、翌年の改善へとつなげていきました。

設備を導入したこと自体が目的ではなく、その設備をどのように使えば、農園や品種の特徴をより良く表現できるのか。

セルヒオの精製への探究は、そこから長い時間をかけて続いています。

品種に合わせて精製方法を探る

セルヒオは、ナチュラル処理を一つの決まった方法として考えているわけではありません。

コーヒーの品種、収穫時の熟度、その年の気候によって、同じ処理を行っても結果は変わります。

チェリーを果実ごと乾燥させるナチュラルだけでなく、果肉を除去して粘液質を残すパルプドナチュラルや、発酵時間と乾燥条件を変えた処理など、さまざまな方法を検証してきました。

重要なのは、発酵由来の強い香りをつくることだけではありません。

その品種が本来持つ香り、甘さ、質感を損なわず、農園の特徴が分かるクリーンな味わいとして仕上げることを目指しています。

セルヒオのコーヒーが、強い個性だけに頼らず、何度も飲みたくなる味わいを持つ背景には、こうした精製と乾燥の積み重ねがあります。

ハバニカとパカマラを中心に

エル・ポルベニール農園では、ハバニカとパカマラを中心に栽培しています。

ハバニカは、この農園の土壌や微気候によく馴染み、セルヒオのコーヒーを特徴づける重要な品種です。

パカマラは、豆の大きさと豊かな香味が特徴ですが、栽培、精製、焙煎のそれぞれで慎重な管理が求められます。

適切に仕上げられたときには、豊かな香り、厚みのある質感、長く続く余韻を見せます。

現在は、レッド・パカマラとイエロー・パカマラを育てるほか、ゲイシャとピンクブルボンの栽培も計画しています。

新しい品種を増やすだけではなく、その土地に適応し、安定して高い品質を生み出せるかを見ながら、農園の将来を考えています。

丈夫な木を次の世代へ残す

同じ品種を同じ時期に植えても、すべてのコーヒーの木が同じように育つわけではありません。

セルヒオは、農園に植えられた多くの木の中から、特に大きく、枝ぶりがよく、葉の数が多い木を選んでいます。

そして、その木から採れた種を分けて育て、一般的な木との生育や品質の違いを検証しています。

同じ条件で育てた木であっても、大きさ、葉の数、実の付き方には明確な違いがあります。

セルヒオはその違いを見過ごさず、農園の気候に適応し、病気や環境の変化に耐えられる木を増やそうとしています。

結果が分かるまでには何年もかかります。それでも、将来の収穫と品質を守るため、長期的な視点で試験を続けています。

一度飲むと、また探したくなる味

約20年にわたりセルヒオのコーヒーを取り扱う中で、ロースターや消費者から繰り返し聞いてきた言葉があります。

驚くほど奇抜な味ではないけれど、なぜか癖になる。

セルヒオのコーヒーが忘れられない。

強い発酵感や分かりやすい華やかさだけで印象を残すのではなく、飲むたびに良さを感じ、もう一度飲みたくなる。

セルヒオのコーヒーには、そうした味わいがあります。

天候や収穫条件によって、コーヒーの風味は毎年変化します。

その中でも、品種と土地が持つ良さを安定して一杯の中に表現できることが、セルヒオの大きな強みです。

長年彼のコーヒーを扱うロースターや、その味を知る消費者が、毎年またセルヒオのコーヒーを探して戻ってきます。

長年の精製研究が受賞へつながる

セルヒオは、2008年に新しい精製設備を導入して以降も、ナチュラル処理を完成した技術とは考えず、試験と改善を続けてきました。

品種ごとの特徴を見極め、収穫したチェリーを選別し、発酵と乾燥の状態を確認する。

そして、完成したコーヒーをカッピングし、次の収穫で何を変えるべきかを考える。この繰り返しを長年続けています。

2025年、エル・ポルベニール農園のパカマラ・ナチュラルは、Nicaragua Cup of ExcellenceのNatural & Honey部門で2位、90.59点を獲得しました。

ニカラグアでナチュラル処理が現在ほど一般的ではなかった時期から取り組み、長い時間をかけて品質を高めてきた成果が、国際的な評価として表れた受賞です。

セルヒオ本人以上に、田中が受賞を喜ぶ姿を見て、セルヒオは少し驚いていました。

田中は、設備を導入した初期から、その後に続いた試行錯誤、減産や人手不足などの苦労を見てきました。

すでに優れたコーヒーをつくっていたセルヒオが、そこで満足せず改善を重ね、さらに上の評価を得たこと。それが、自分のことのようにうれしかった理由です。

品質を下げないという意志

私たちは生産者を訪ねた際、コーヒーづくりにおいて譲れないことは何かを尋ねています。

セルヒオが守り続けているのは、コーヒーの品質です。

高品質なコーヒーをつくるには、栽培管理、収穫、精製、乾燥のすべてに費用と手間がかかります。

新しい設備や品種を導入したとしても、その費用が必ず回収できるとは限りません。

それでも品質を下げず、毎年改善を続け、より良いコーヒーをつくりたいという強い思いを持っています。

セルヒオの探究心は、流行している精製方法を追うためのものではありません。

農園の環境に合う方法を見つけ、品種が持つ特徴を引き出し、継続して買い手に届けられる品質をつくるための取り組みです。

収穫を支える人手不足

近年、セルヒオをはじめとするニカラグアの生産者を悩ませているのが、収穫作業員の不足です。

中南米から米国へ働きに出る人が増えたことで、農村部では、熟したコーヒーチェリーを摘むピッカーの確保が難しくなっています。

限られた人数を複数の農園が求めるため、作業員は少しでも高い賃金を支払う農園へ移ります。生産者側も、人材を確保するために賃金を上げざるを得ません。

先週末までに40人を集めようとしましたが、20数人しか確保できませんでした。

今週の終わりまでに合計80人、月末までには合計120人を探して雇わなければなりません。

こうした苦労が、本当に絶え間なく続くのです。

コーヒーの実は、熟した時期を待ってくれません。

十分な量が実っていても、適切な時期に収穫する人がいなければ、品質と収穫量の両方を失う可能性があります。

ある収穫年には、前年から約80%の減産となる厳しい状況にも直面しました。

収穫量が回復する見込みがあっても、実際に収穫する人が集まるまでは安心できません。

電気のない農園で続く仕事

エル・ポルベニール農園には、電気が通っていません。

事務作業は明るいうちに済ませ、日が落ちれば、仕事も暮らしも自然の時間に沿って進みます。

すべての作業が最新の設備に支えられているわけではありません。

それでもセルヒオは、農園を歩いて一本ずつ木を観察し、新しい区画をつくり、農園に合う品種や丈夫な木を増やす方法を考え続けています。

自然条件が毎年変化する中で、その年の状態を受け止め、次の収穫へ向けて改善を重ねる。

そうした地道な仕事が、セルヒオのコーヒーを支えています。

日本へ伝えたいこと

セルヒオは、日本のロースターや消費者に向けて、次のように話しています。

私のコーヒーを取り扱ってくださる方、飲んでくださる方には、とても感謝しています。

毎年、改善を続けることができるのも、皆さんのおかげです。

コーヒーは、すべて同じものにはなりません。天候や私たちの働きかけによって、どのようにでも変化します。

試行錯誤の末に育った農作物から生まれる、多彩な風味を感じていただきたいと思っています。

それぞれの味に驚きや発見を見つけ、その中で私のコーヒーを気に入っていただけたなら、何より幸せです。

もちろん、自分のコーヒーには自信を持っています。

毎年同じ味をつくることではなく、その年の気候や農園の状態を受け止めたうえで、品種と土地の良さを引き出すこと。

セルヒオの言葉には、自然を相手に試行錯誤を続ける生産者としての考えが表れています。

主な受賞歴

  • 2012 Nicaragua Cup of Excellence 10位・88.13点
    Casa Blanca / Pacamara Washed
  • 2024 Nicaragua Cup of Excellence 6位・89.35点
    El Porvenir / Pacamara Washed
  • 2025 Nicaragua Cup of Excellence Natural & Honey部門 2位・90.59点
    El Porvenir / Pacamara Natural
  • 2026 Nicaragua Cup of Excellence Natural & Honey部門 12位・87.72点
    El Porvenir / Yellow Pacamara Natural

セルヒオ・オルテツは、内戦の傷が残る農園を再生しながら、品種、栽培、精製、乾燥の一つひとつを見直し、農園の品質を高めてきました。

BOOKyourCOFFEE代表の田中大介との関係は、2006年に始まりました。

田中がブラジルで得た精製の知見を伝え、セルヒオがそれを自分の農園で実践できる形へ変え、完成したコーヒーを二人で評価しながら次の改善につなげる。

約20年にわたる関係は、単なる生産者と買い手の関係ではなく、互いの経験を持ち寄り、品質をともに考えてきた時間でもあります。

2008年に始まったナチュラル処理への挑戦は、その後も品種や発酵、乾燥方法を変えながら続き、2025年のCup of Excellence Natural & Honey部門2位へとつながりました。

受賞を到達点とせず、その年の気候や農園の状態と向き合いながら、さらに良い方法を探し続けること。

その探究心と積み重ねが、飲むほどにまた探したくなる、セルヒオのコーヒーをつくっています。